マッチングアプリでメンタルをやられるのはなぜ?疲れの正体と守り方

日曜の深夜三時。
布団から出した右手の親指だけが、まだ律儀に働いていた。
左へ、左へ、ときどき右(笑)。
その日の昼にカフェで会った人の顔が、もう思い出せないことに気づいて手が止まる。
(僕、何してんだろ…)
アプリを始めて二年目の冬、僕にとって一番みっともない夜だった。
翌朝、アプリを消そうとして、結局できなかった。
代わりに決めたのは、日曜の夜は開かないという小さなルールだけ。

あの夜から、撮影の合間にアプリの話が出るたび、メモを取るようになった。
疲れた、病んだ、もう無理。
口ぐせのように言いながら、誰もアプリを消していない。
その矛盾の中に、答えが埋まっている気がしたのさ。

目次

マッチングアプリでメンタルをやられるのは、心が弱いからじゃない

アプリで心がすり減ると、たいていの人は自分の弱さを責める。
でも話を聞けば聞くほど、原因は持ち主の心より、毎日の使われ方のほうにあった。

既読無視で沈む自分を、欠陥扱いされた裕介さん

ウェブ広告の運用をしている裕介さんは28歳。
既読無視ひとつで沈む自分に、何度も舌打ちした。
慣れている人は、ワンチャンあるでしょと軽く流す。
返事を待つあいだは、平気で別の人を見ている。

「人が離れていくのは既読無視のせいじゃない。既読無視で病むそのメンタルのせいだよ」
知人にそう言われた瞬間、胸の奥にぐさりと刺さった。
言われた中身より、その言い方そのものに、もう一度傷ついたわけ。

感受性が高いことが、この市場ではまるで欠陥みたいに扱われる。
求められているのは、傷つかない人間になる練習。
練習の中身は、人の沈黙を気にしないこと。
その練習がうまくいった先で、今度は自分が誰かを沈黙で切れるようになる。
どっちに転んでも、健全じゃない。

審査員席と舞台を、一日に何十往復もしている

話を並べて見えてきたのは、アプリの中の奇妙な二役だった。
いいねを待つとき、人は舞台の上の出場者になる。
写真と自己紹介を掲げたまま、無言の審査にさらされっぱなし。
次の瞬間には審査員席に座って、誰かのカードを左へはじいている。
評価される疲れと、評価し続ける疲れ。
しかも審査の基準は、誰からも教えてもらえない。
この二つを同じ日に、しかも何十回も往復させられる。
舞台の上では減点され、審査員席では誰かを減点する。
どちらの席でも、握らされているのは同じ採点表。
心がすり減らないほうが、よっぽど不思議なのさ。

審査される側で、心が削られていく理由

舞台に立ち続けた人たちの話には、共通の痛みがあった。
努力と結果が、どうやってもつながらない感覚。
説明もなく切られ、理由も知らされないまま、次の審査が始まっていく。

返ってくるのは無か拒否だけ。拓海くんの目減りした自信

新人ライターの拓海くんは25歳。
いいねを送っても、返事がほとんど来ない週が続いた。
連絡してもスルー。
食事に誘ってもスルー。
次を誘えば、そのまま消える。
自己肯定感が、目に見える速さで下がっていった。
「アプリで結婚までいく人、本当にすごいっすよ!」
そう言って笑う顔が、少しだけこわばっていた。

拓海くんがやられた理由は、単純だった。
努力への返事が、拒否か無の二種類しかない。
仕事なら、うまくいかなくても直すべき点が見えてくる。
ここでは直す点が見える前に、存在ごと既読の向こう側へ送られてしまう。
直しようのない努力ほど、人をすり減らすものはない。

無視とドタキャンに慣れていく怖さ。亮介さんの限界

音楽ライターの亮介さんは30歳。
既読無視もドタキャンも当たり前の世界で、何度も人を信じられなくなった。
耐えた先で未来が変わるかもしれない。
そう言い聞かせながら、本当はギリギリだった。

便利な道具のはずなのに、人をあっさり切る手つきまで身についてしまう。
会ったその場で、次があるかを機械的に判定する。
少しでも引っかかれば、そこで止める。
短い関係に時間を使いすぎて、長い信頼を積み上げる感覚が鈍っていく。
亮介さんが本当に削られたのは、恋愛感情じゃない。
人はいくらでも代わりがきく、という前提に自分が染まっていくことだった。

弱っている週ほど、結果も沈む。みなみさんの悪循環

ヨガの発信をしているみなみさんは26歳。
同じプロフィールなのに、元気な週と沈んでいる週では反応が違う。
内面は、そのまま画面ににじみ出る。
弱っているときに開くと、弱い結果だけが積み上がっていく。
休んだら、その間に年齢がひとつ上がる。
そんな焦りに背中を押されて、また開いてしまう。

どうせ沈んだ結果しか出ないなら、弱った日は閉じたほうがいい。
あとからそう分かっても、閉じる行為が努力を放り出した自分に見えてしまう。
気づけば、通知をオンに戻している。
休むこと自体を、負けに変換してしまう。
心が削られる理由の中でも、ここは一番見落とされやすいと僕は断言する。

審査する側に座り続けても、心はすり減る

選ぶ側なら楽そうに見えて、審査員席にも別の疲れがたまっていく。
しかもこっちの疲れは、本人がなかなか気づけない。
人を選ぶたびに、自分の中の物差しが少しずつ硬くなっていくから。

半年で誰も好きになれなかった詩織さん

アートディレクターの詩織さんは33歳。
半年アプリを続けても、誰ひとり好きになれなかった。
会うたびに、口をついて出るのは疲れたの一言だけ。

比べる相手が、画面の中に無限に並んでいる。
一人の欠点が、次のカードでいくらでも消せるように見えてしまう。
いつのまにか、目の前の人が人じゃなく、条件の束に見えていた。
(私って、こんなに冷たい人間だったっけ…はぁ…)

詩織さんが冷たいわけじゃない。
選ぶ筋肉ばかりが先に鍛えられて、惚れる筋肉がやせ細っていっただけ。
カフェでのお茶を、三十五分で切り上げた日があった。
記憶に残ったのは相手の顔より、品定めで重くなった自分のまぶたのほう。

数を追うほど、空っぽが証明されていった誠也さん

映像ディレクターの誠也さんは34歳。
これまでに会った人は、数百人。
それでも関係を深める手ざわりはつかめず、胸のあたりにがらんとした空洞だけが残った。
顔が刺さるかどうかのくじを、回し続ける日々。
待ち合わせの微妙な空気、写真との違い、浅い会話、思ってもいない褒め言葉。
一晩をともにしても、翌朝には相手の名前が出てこない。
満たされたかったはずのものは、何ひとつ満たされなかった。

会う数が増えるほど、人とつながる力が抜け落ちていることだけがくっきりする。
誠也さんを削ったのは、拒絶の量より、自分の中から何も生まれない反復のほう。
予定表が埋まるほど、空っぽの証拠も同じ数だけたまっていく。

丁寧さの在庫が切れた絵里さん

本の紹介で人気の絵里さんは31歳。
どちらかに恋人ができた瞬間、二度と連絡を取らなくなる関係を何度もくり返した。
何回か会っても、何も起きない。
続いている相手とも、進展は薄い。
返信を打つこと自体が、いつのまにか労働になっていた。

絵里さんの中で底をついたのは、恋心より先に、中身の薄い丁寧さの在庫だった。
相手が悪いわけでもない。
深い話にたどり着く前に、仕組みが次のカードを見せてくる。
丁寧にやればやるほど、その丁寧さは消費されて、手元に戻ってこない。

便利さの裏で、人を雑に扱う癖はじわじわ育つ。
雑に扱われた側は、自分の値打ちを削られる。
雑に扱った側は、誰かと深く結びつく力が育たない。
どちらの手元にも最後に残るのは、選ばれなかった感覚と、選ぶことへの飽き。
マッチ数を増やせば出会える、という話は半分しか当たっていない。
数だけ増やせば、増えるのは傷の回数のほうだから。

やめたいのにやめられないのは、閉じた先の空白が怖いから

疲れたと嘆く人ほど、アンインストールのボタンには触れない。
冒頭の矛盾には、ちゃんと理由があった。

疲れたと言って五分後にまた開く、あずみさん

カフェ巡りを発信しているあずみさんは29歳。
ゴースティングされるたびに、本命にはなれない自分を突きつけられる気がした。
疲れたと口に出して、五分後にはまた画面を滑らせている。
結婚したいのか、ひとりの夜を埋めたいだけなのか、自分でも分からなくなっていく。

アプリを閉じたら、可能性までゼロになる気がする。
残しておきたいのは、特定の誰かじゃない。
まだ選べる、という状態そのもの。
通知が鳴るたびに、画面より先に胸が小さく跳ねる。
その一瞬の明かりが、やめる理由をかき消していく。
疲れと依存が、同じボタンの上に乗っかっているわけ。
やめられない理由は、希望というより、閉じたあとの空白への怖さに近かった。

アプリを消しても、消えなかったもの。春香さんの場合

インテリアコーディネーターの春香さんは37歳。
結婚したくて登録したのに、目的の違う相手に年単位の時間を取られた。
時間を無駄にした感覚は、年齢の数字よりずっと重たい。
少しでも気に食わないとすぐ止める文化の中で、自分も同じ手を覚えかけた。
人をモノのように扱う考え方に慣れていくのが、何より怖かった。

怖いまま、それでもログインだけは続けてしまう。
やめた瞬間に残るもののほうが、もっと背筋を冷やしたから。
自信のなさ、見た目へのコンプレックス、どうせ自分なんか選ばれないという感覚。
アプリを消しても、それは消えない。
春香さんを追いつめた正体は、アプリが毎日つつく自己評価のスイッチだった。

マッチングアプリでメンタルを守るには、休み方から先に決める

メンタルを守る話になると、決まって休んでいいよとだけ言われる。
正直言って、その一言だけでは親指は止まらない。
実際に効くのは、休むという言葉より、休み方の段取りのほう。
休む日を先に決めてしまえば、閉じることは負けじゃなく予定の一部になる。

弱い週は開かない、沈黙で自分を採点しない

弱っている週は、そもそも開かない。
既読のあとの沈黙は、自分の人格の判定材料から外す。
会う人数の目標も、最初から置かないこと。
そのうえで、アプリを閉じても自分が消えない作業を、画面の外にひとつ持っておく。

それでも通知は来る。
来るたびに、自分の価値を採点し直されるような感覚は残る。
残るのを前提に、その点数に有り金を全部張らない。
これが、この仕組みの中で一番現実的な守り方だと僕は確信している。
僕自身、日曜の夜に開かないと決めてから、月曜の朝の顔色が少しましになった。
ただ、眠れない夜や、食事が喉を通らない日が二週間以上続くなら、話は別。
アプリの設定をいじるより先に、信頼できる人や、心療内科などの専門家に話してほしい。

やめるか続けるか迷ったら、開いた理由を思い出す

アプリを消すか、続けるか。
迷ったときは、最後に開いた理由を振り返ってみてほしい。
会いたい誰かがいて開いたのなら、まだ続けていい。
選ばれる側にいるかを確かめるためだけに開く回数が増えていたら、話は別。
それは、一度離れる合図。
休会の機能を使ってもいいし、アプリごと消してもいい。

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この記事を書いた人

体験ベースの恋活ナビ編集部です。
令和のリアルな出会い事情、デートまでの心理戦、別れ方まで、すべて体験ベースで本気で恋活・婚活したい人に届ける本音ラボ。

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