マッチングアプリに勇気が出ない人時、止まる場所別の最初の一歩

スマホのホーム画面に、アプリのアイコンが戻ってきては消えていく。
インストールして、削除して、また入れて。
それを一年で三回くり返したのが、二年前の私なんだよねぇ。
三回目に止まったのは、プロフィール写真を選ぶ画面だった。
カメラロールをいくら遡っても、出てくるのは二種類だけ。
友達の肩が見切れている写真か、ジョッキを掲げている写真。
こんなの、知らない人に見せられるわけないじゃん…
アイコンを長押しして削除したときの指の感触まで、まだ覚えてる(泣)。

今年の春、編集部の会議室が一日だけ簡易スタジオになった。
カメラマンの厚意で、プロフィール写真の撮影会を開いたの。
順番待ちの列は、なんだかそわそわしている。
「実はまだ、登録すらしてなくて」
誰かのその一言を合図に、アプリの前で立ちすくんだ話が次々にこぼれ出した。

目次

マッチングアプリに勇気が出ない。止まっている場所はひとつじゃない

写真が用意できずに、入口で立ち止まる人がいる。
自撮りはあっても、誰かに撮ってと頼めない人も。
いいねのボタンは押せるのに、誰に押すか選べないまま一日が終わるケース。
マッチしても最初の一文が送れず、やりとりが続いても会う手前で足がすくむ。
ひとつの段でつまずくと、アプリは開いているのに関係は始まらない。
勇気の量の問題じゃない。
どの段で止まっているかが、本人にも見えていないだけ。

開いているのに始まらない、直輝くんの一週間

撮影アシスタントの直輝くんは24歳。
マッチした瞬間だけは、テンションが跳ね上がる。
そのあとは、メッセージを考えすぎて指が固まる。
やっと完璧な文を仕上げて送ったら、既読のまま音沙汰なし。
プロフィールは何度も見直すのに、結局一文字も変えないまま。
いいねはばらまいているのに、マッチの通知は鳴らない。
「あるあるを全部集めたら、僕の一週間になるんですよ(笑)」
本人は笑っていたけど、画面を開く回数だけが増えていく一週間って、けっこう重たい。

手軽なのは、ダウンロードまで

アプリは手軽だと、よく言われる。
でも手軽なのは、ダウンロードの瞬間まで。
その先には、顔も知らない誰かの判定に自分を差し出す作業が、段ごとに待っている。
勇気が出ない人は、怠けているわけじゃない。
やり方を調べるより手前で、堂々巡りをしているだけ。

見た目を整えてから始めようとして、服が分からなくて止まる。
性格に合う場所を選んだのに、ボタンの前で指が凍りついたまま。
努力したのに土俵に上がれず、努力不足だと言われる。
この足踏み、飛び込み台の上で立ちすくんでいる姿にそっくりなの。
下をのぞくほど、水面は遠く見えるんだよねぇ。
でもプールには、ちゃんと階段もついている!

写真と登録の手前で止まる人

一番最初の段で止まる人は、意外と多かった。
アプリの中で誰かに会う前に、自分を一枚の写真にする作業が待っているから。

整える基準が分からず三か月。晃さんの初期アイコン

撮影機材のレンタル会社で働く晃さんは28歳。
友人にアプリをすすめられてから三か月、アイコンは初期設定のまま放置していた。
始めるにしても、まともに写った写真が一枚もない。
先に髪型と体型を整えようとする。
ところが、どんな服が似合うのかが分からない。
基準が見つからないまま、やっぱいいやに戻ってしまう。

周りはやり方なら教えてくれる。
晃さんの息が止まるのは、そのもっと手前。
自分を、棚に並べる一枚に仕立てる作業そのものだった。
彼に足りないのは、恋愛の勇気じゃない。
自分の顔を、会ったこともない人の品定めにさらす勇気なんだよね。

撮ってと頼むのも恥ずかしい。聡さんが感じた二重の視線

ウェブエンジニアの聡さんは31歳。
結婚相談所は、料金を見て諦めた。
街コンは、人見知りが勝って途中で折れた。
相席の店は真剣さが薄くて一度きり、合コンも同じ理由で二回でやめている。
最後に残ったのが、マッチングアプリだった。

性格には合っている。
なのに、写真を撮る段階でまた止まる。
手元にあるのは自撮りだけ。
載せようとすると、耳の裏まで熱くなる。
かといって誰かに撮ってもらうのは、今から婚活しますと宣言するようなもの。
アプリの向こうの目と、撮影を頼む知人の目。
二つの視線を同時に想像した瞬間、指はホーム画面へ戻っていく。

斜に構えていた二十代を、加奈さんが振り返ると

フリーのスタイリストとして働く加奈さんは32歳。
二十代のころは、アプリを斜めから眺めていた。
(ああいうのは、私はやらないから!)
そんな空気を、自分にまとわせていたの。
声をかけてくる人のことも、軽いと切り捨てていた。

振り返れば、変なプライドとこうあるべきという思いこみで、自分を守りすぎていただけ。
今の加奈さんは、そのころの後悔を驚くほど細かく語れる。
出会いの場に勝手に格付けをして、格が下がる側に自分を置かないようにしていた。
勇気が足りなかったというより、世間体に縛られて、土俵の外で賢いふりをしていた。

いいねと最初の一文で、指が止まる人

登録を済ませた人にも、次の段が待っている。
押すか、返すか、送るか。
画面の上では指一本の動きなのに、心の中ではちょっとした決断の連続なのよ。

いいねを返すのが、相手の画面に現れる許可に思えた美穂さん

読者プレゼントの発送を担当している美穂さんは27歳。
登録までは、なんとかこぎつけた。
いいねも届く。
それなのに、自分からは返せない。
返すことは、相手の画面に自分が現れる許可を出すことに思えた。
気軽に押していいのかも分からず、画面を閉じる夜が続いた。

恋愛ニートを卒業しなきゃ。
そう決めた日から、ボタンの重さだけがどんどん増していく。
美穂さんは人見知りで、街コンも合コンも最後まで座っていられなかった。
アプリなら、自分の性格に一番合うはずだった。
合うはずの場所で、最初の指が動かない。
合うことと、踏み出せることは、まったくの別ものだった。

一日三人に、国家予算並みの慎重さ。隆志さん

校正を担当している隆志さんは35歳。
いいねを押すだけなのに、毎回国家予算を組むくらい慎重になる。
一日に押せるのは三人まで。
いつ出会えるのかは、まるで見えない。
真面目にやりすぎて、結局誰にも押せない日が続く。
全員に適当に送る勇気もなければ、一人に絞りこむ勇気もない。
その中間の慎重さが、何ひとつ動かさない。

隆志さんが一番恐れていたのは、嫌われることじゃなかった。
自分のいいねが、相手にとって雑音になること。
(相手の時間を奪うくらいなら、押さないほうがましなんじゃ…)
優しさが、そのまま足かせになっていたわけ。

勇気を出した報酬が、既読無視だった和真くん

ヘアサロンでアシスタントをしている和真くんは26歳。
マッチした相手を見て、正直、会いたくないなと思ってしまった。
かわいくない、と心の中でつぶやいた自分を、送る前に何度も叱った。
それでも、仲良くなれるかもと思い直して、送信ボタンに触れる。
返ってきたのは、既読の二文字だけ。
(せめて一言くらい…はぁ…)

会う前から相手を評価して、それでも送って、それでも無視される。
勇気を出したごほうびが、静まりかえった既読マーク。
和真くんはそれから一週間、アプリを開けなかった。
断られることより、出した勇気の行き場がなくなるほうが、ずっと長く胸に残る。

会う手前と、反応がない日々で止まる人

やりとりまで進んでも、まだ段は残っている。
会う約束の手前と、そもそも何も起きない日々と。
ここで止まるのは、ずるさでも臆病でもない。
自分を守るための、ちゃんとした理由がある。

登録は、まだ選べる自分の確認。由衣さんの守り方

広告営業の新人、由衣さんは23歳。
アプリに入るところまでが、本人の中ではかなりの大仕事だった。
かわいい人とマッチしてはしゃぐ友達を横目に、会う気は最後まで起きなかった。
「その先は、プライドが許さなかったんですよね」

彼氏を作る気もないのに登録する人、とひとまとめにされるのは心外。
由衣さんにとって、登録はまだ選べる自分を確かめる行為だった。
会うことは、選ばれる側に立つこと。
確認までしか踏み出せない勇気は、冷たく見えて、実は傷を浅くとどめる守りでもある。

知らない人と急に一対一。玲奈さんの心臓が追いつかない速さ

ブックデザイナーの玲奈さんは29歳。
内向的で、ふだんの人間関係は狭いほう。
アプリは手軽で、恋愛したい人が集まっている。
だから、すぐ付き合えそうに見える。
実際は、会話の力と、最初の見た目の判定がものを言う世界だった。

二人きりが苦手な人ほど、仕組みの速さに置いていかれる。
登録した週、玲奈さんはマッチの通知だけで心臓がばくばく鳴った。
趣味のコミュニティのほうが、安全なペースかもしれないと思い直したこともある。
アプリが悪いわけでも、玲奈さんが弱いわけでもない。
知らない人と急に一対一になる速さが、彼女の神経のペースと合っていなかった。

いいねゼロの週と、見えない努力。智美さんと哲也さん

フラワーコーディネーターの智美さんは36歳。
いいねがゼロの週が、何週も続いた。
需要のなさがメンタルの脂肪になる。
智美さんの口から出たこの言葉が、今も耳に残っている。
メッセージなんて怖くて送れないし、そもそも送る相手がいない。
智美さんの足を止めていたのは、見られているのに何も起きない状態のほう。
反応のない場所に、毎日自分の顔を置いておく。
それが、登録したあとに待っていた一番静かな怖さだった。

撮影スタジオの設営スタッフ、哲也さんは39歳。
写真を撮り直し、自己紹介を練り直し、課金もした。
それでもマッチしない。
会話の練習どころか、最初のこんにちはにすらたどり着けない。
いいねが山ほど届いて相手を選べる人から、もっと努力しなよと言われる。
努力していないと思われるのが、一番こたえた。

スタートラインにすら立てない段階は、断られる失恋とは種類が違う。
哲也さんの勇気は、もうとっくに使い果たされていた。
使った先に、相手がいない。
残ったのは、努力が見えないことへの怒りと、画面を開く気力の目減りだった。

勇気が出ないまま動けた人は、一段を小さく刻んでいた

動き出せた人たちだって、勇気が満タンになるのを待ってはいなかった。
勇気が出ないまま、作業の単位だけをぎりぎりまで小さくする。
飛び込み台から降りて、プールの階段を一段ずつ下りていく感じ。

いいねは一日三人、写真は一枚、最初の一文は短く

動き出した人の中には、一日三人だけは押していいと自分に許した人がいる。
国家予算並みの慎重さを、三人分だけに限ってしまう。
それも、立派な踏み出しの形。
写真を一枚だけ、友達にシャッターを頼んだ人もいる。
完璧な自己紹介を捨てて、短い一文で送り始めた人もいた。

写真を頼むのが恥ずかしいなら、友達とのランチのついでに一枚だけ。
窓際の席なら、光もきれいに回ってくれる。
婚活の匂いは、ランチの湯気がだいぶ消してくれる。
最初の一文は、相手のプロフィールから単語をひとつ拾うだけ。
そこに質問をひとつ添えれば、もう十分。
反応がない週が怖いなら、アプリを開く曜日を先に決めておく。
それ以外の日は、通知ごと眠らせてしまえばいい。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

体験ベースの恋活ナビ編集部です。
令和のリアルな出会い事情、デートまでの心理戦、別れ方まで、すべて体験ベースで本気で恋活・婚活したい人に届ける本音ラボ。

コメント

コメントする

目次